目次
1. 機械刃物
①切る物
②使用機械
②使用方法
2.機械刃物の設計
3.機械刃物の材質の選び方
①使用環境
②使用状況
4.機械刃物の材質
①工具鋼-炭素工具鋼(SK材)
②工具鋼-低合金工具鋼(SKS材)
③工具鋼-ダイス鋼(SKD材)
④工具鋼-ハイス鋼(SKH材)
⑤ステンレス鋼-SUS材、AUS材
⑥粉末治金-粉末ハイス
⑦粉末治金-超硬
1.機械刃物とは
機械刃物製作事例
以下は、試作刃物製作の注文を頂いた刃物の一覧です。
詳細はリンク先のページをご覧ください。
医療用カッター(錠剤)W33×H14×t1.2 医療用カッター(錠剤)W17×H12.5×t0.5
プラスチック用カッターW180×H180×t1.2 PP入りゴムカッターW130×H30×t0.8
食品用(玉子焼き)刃物W120×H30×t0.25 回転式フードカッターW230×H140×t3.0
プラスチック用(配線ダクト)用刃物φ50×t1.2 ジャバラ管用カッターφ140×t1.0
上記写真に示すように、工場で使用される業務用刃物であり、機械部品としての刃物です。
機械刃物を「切る物」「使用機械」「使用方法」で分類すると、
①切る物
食品
木材
紙
フィルム
ゴム
プラスチック
繊維
電線(ワイヤーハーネス)
カーペット
自動車部品
②使用機械
食品機械用刃物(フードカッター)
木工機械用刃物
医療用刃物
農業機械用刃物
繊維機械用刃物(ミシン)
製紙用刃物
製本用刃物
金属加工用刃物
③使用方法
ギロチン式カッター
プロッター刃物(カッティングプロッター)(サンプルカッター)
振動カッター
超音波カッター
などがあります。
2.機械刃物の設計では
刃物の材質
機械の切断方法
刃物形状
刃物の刃先形状
などを考慮して設計します。
以下にそれぞれの具体的な内容を進めていきます。
3.機械刃物の材質の選び方
大きく分けると、「使用環境」「使用状況」で決めます。
①「使用環境」
一般的に刃物は、
工具鋼(炭素工具鋼、低合金工具鋼)を使用します。、
高速で回転する刃物や、高速で移動し切断することにより、
刃物が高温状態(200℃以上)なる場合は、
上記の2種の工具鋼は、刃物が鈍り、
刃物としての硬さが失われる場合があるので、
ダイス鋼やハイス鋼を使用します。
しかし、工具鋼・ダイス鋼・ハイス鋼は錆びやすいと言う難点があるので、
フードカッターの様に、濡れた食品を切る時や、
異物混入などを恐れて、割れにくい刃物が必要な時は,
ステンレス鋼を使用します。
さらに、耐久性を非常に重視する時は、
粉末治金(粉末ハイス、超硬)を使用します。
②「使用状況」
切る物の硬さ、切る物の切りにくさ(難削性)、
刃物に求める耐久性などを考慮し、
具体的な機械刃物の材質を決定します。
材質の硬度を硬い順に並べると、
超硬>粉末ハイス>ハイス鋼>低合金工具鋼>炭素工具鋼>ダイス鋼>ステンレス鋼
となります。
ステンレス鋼は錆びにくい材質ですが、耐久性は低いので、
耐久性と耐食性を両方求める場合には、
ハイス鋼にメッキ等の表面処理を施すことで対応します。
ちなみに、材料価格は、
超硬>粉末ハイス>ハイス鋼>ダイス鋼>ステンレス鋼>低合金工具鋼>炭素工具鋼
となります。
材質が決まれば、
硬度(必要な硬さ)を定めた上で、
適切な熱処理を行います。
以下に、
工具鋼、ステンレス鋼、粉末治金
それぞれの材質の特徴、硬度、熱処理条件などを説明します。
4.機械刃物の材質
①工具鋼-炭素工具鋼(SK材)
炭素工具鋼は、
・代表的な鋼材
SK:Steel Kogu
・代表的な規格
SK3
SK4
SK5
・特徴
0.6~1.5%の炭素を含有し、合金元素を添加しない工具鋼です。
・機械的特性
JIS上の種類として、SK1、SK2、SK3、SK4、SK5、SK6、SK7、SK8、SK9があります。
炭素量は1.3%を基準として、規格の数字×0.1%を引いた量となります。
すなわち、SK1:1.3-0.1=1.2%、SK3:1.3-0.3=1.0%の要領です。
なお、一般的に鋼材の炭素量が増加すると、
引張強さ・硬さが増加する一方で、
伸び・絞りが減少し、被削性・被研削性が悪くなります。
・硬度
HRC63程度
・熱処理条件
焼入れ温度:約850℃
焼戻し温度:約200℃
急冷方法:油冷
特徴:油冷なので熱処理時の歪み(変形)が大きく、後加工の歪取り加工に時間を要する。
②工具鋼-低合金工具鋼(SKS材)
低合金工具鋼は、
・代表的な鋼材
SKS:Steel Kogu Special
・代表的な規格
SKS2
SKS3
SKS5
・特徴
炭素工具鋼(SK材)に合金元素を少量添加した工具鋼です。
焼き入れ性・耐久性が炭素工具鋼より優れています。
・機械的特性
合金工具鋼は炭素工具鋼にMn(マンガン)、Cr(クロム)、W(タングステン)、
Mo(モリブデン)、V(バナジウム)などを添加し、
焼入れ硬さ、耐摩耗性、耐熱性などを向上させています。
また、切削工具鋼、耐衝撃工具鋼、冷間金型用工具鋼、熱間金型用工具鋼に分けられ
SKS材は主に切削工具鋼に分類されます。
SKS2、SKS5、SKS7ともに刃物として用いられますが、
SKS5は帯のこや丸のこに使用されることが多いです。
・硬度
HRC63程度
・熱処理条件
焼入れ温度:約850℃
焼戻し温度:約200℃
急冷方法:油冷
特徴:油冷なので熱処理時の歪み(変形)が大きく、後加工の歪取り加工に時間を要する。
※焼き入れ性について
「合金鋼は合金が入っているので、焼入れ性が良い」
みたいな事を耳にしますが、焼入れ性とは何でしょうか?
Crの含有量を比較すると、
SK<SKS<SKD<SKH<SUSの順になる。
SKSはSKより焼入れ性が良いと・・・言われている。
(弊社の得意な薄くて小さい刃物においては大きく変わらない)
でも両方とも油冷(油冷のスピードで急冷しないと焼きが入らない)
一方、SKD以上になると、Crの含有量が多く焼入れ性が非常に良いので、
油冷さえ必要なく、空冷で焼入れ可能なのです。
結果として、SKやSKSより焼入れ歪みが小さくなり加工がしやすくなります。
③工具鋼-ダイス鋼(SKD材)
ダイス鋼は、
・代表的な鋼材
SKD:Steel Kogu Dice
・代表的な規格
SKD11
SKD61
・特徴
金型の材料としても用いられます。
耐久性に優れています。
・機械的特性
SKD11:
Cr(クロム)を11%程度含んだ合金工具鋼です。
Crを含んでいるため、耐摩耗性に優れます。
プレス金型に、よく用いられるため、
冷間金型用工具鋼とも呼ばれます。
SKD61:
C(炭素)はSKD11より少ないですが、
Mo(モリブデン)やV(バナジウム)を多く含む工具鋼です。
C(炭素)が少ないため、硬度はSKD11より小さいですが、
靱性(じん性)に優れる材料です。材料の破壊に対する抵抗性のことである。
(靱性:材料の破壊に対する抵抗性。材料の粘り強さとも言う。)
鍛造金型に、よく用いられるため、
熱間金型用工具鋼とも呼ばれます。
・硬度
SKD11:HRC60程度
SKD61:HRC55程度
・熱処理条件
焼入れ温度:約1050℃
焼戻し温度:約200℃、約500℃
急冷方法:空冷
※焼戻し温度について
500℃程度で焼戻すことを、高温焼戻しと言う。
高温焼き戻しは、硬さや強度は少し低下するが、延性や靱性は向上する。
機械刃物は、高速移動しながら切断することが多く、
使用中に高温になる事が多いので、高温焼戻しを行うことが多い。
④工具鋼-ハイス鋼(SKH材)
ハイス鋼は、
・代表的な鋼材
SKH: Steel Kogu High-speed
・代表的な規格
SKH2
SKH9(SKH51)
・特徴
工具鋼における高温下での弱さを補い、より高速での使用を可能にする工具鋼です。
粉末治金を除けば、耐久性に最も優れています。
・機械的特性
炭素(C)、タングステン(W)、クロム(Cr)、バナジウム(V)
を含む工具鋼です。他にコバルト(Co)、モリブデン(Mo)なども含みます。
SKH2は18-4-1型と言われ、W:18%、Cr:4%、V:1%含まれます。
SKH9(SKH51)はWの大部分をMoにしたMo型です。
Moを含むことで、粘り強さが増し、高温での強度、硬度が上がります。
また焼入れ性を上げて、焼き戻しによる軟化や脆化を防ぐ効果もあります。
・硬度
HRC64程度
・熱処理条件
焼入れ温度:約1200℃
焼戻し温度:約500℃
急冷方法:空冷
※刃物の耐久性・耐摩耗性について
一般的にC量が多いと硬度が高くなります。
そして、硬度が高くなると刃物の耐久性・耐摩耗性が向上します。
しかし、SK・SKS・SKD・SKH、どれもほとんど硬度は変わりません。
硬度はあまり変わらないのに、耐久性は明らかに違いがある。
その理由を明確に答えることは難しいですが、
焼戻し温度にヒントがあるような気がします。
SK・SKSは200度程度で焼戻し、
SKD・SKHは500度程度で焼戻します。
つまり、SKD・SKHは高温焼戻し(硬度が下がる)にもかかわらず、
SK・SKSと同等の硬度を持っている。
それにより、耐熱性だけではなく、耐久性まで兼ね備えた材料なのです。
当然ですが、その特徴の源は、合金の配合です。
⑤ステンレス鋼-SUS材、AUS材
ステンレス鋼は、
・代表的な鋼材
SUS: Steel Use Stainless
・代表的な規格
SUS420J2
SUS440C
AUS6
AUS8
・特徴
錆びにくい鋼材です(錆びないわけではありません)
主に食品業界で用いられます
・機械的特性
鉄(Fe)を主成分(50%以上)とし、クロム(Cr)を10.5%以上含むさびにくい合金鋼です。
オーステナイト系、マルテンサイト系、フェライト系の3種類に分かれ、
フェライト系・・・・・・磁性がある、焼入れ不可、耐食性高い
オーステナイト系・・・磁性が無い、焼入れ不可(圧延により加工硬化あり)、耐食性高い
マルテンサイト系・・・磁性がある、焼入れ可、耐食性は落ちるが耐久性が高く刃物に使用される
・硬度
SUS420J2:HRC50程度
SUS440C:HRC58程度
AUS6:HRC54程度
AUS8:HRC58程度
・熱処理条件
焼入れ温度:約1000℃
焼戻し温度:約200℃
急冷方法:空冷
⑥粉末治金-粉末ハイス
粉末ハイスは、
・代表的な鋼材
SKH: Steel Kogu High-speed
・代表的な規格
HAP10
HAP40(SKH40)
・特徴
ハイス鋼に比べて強靭で、耐磨耗性に優れ、疲労に強い、靭性に富んだ鋼材です。
・機械的特性
粉末冶金法によって製造されるハイス鋼です。
型に元となる材料の粉をいれ、熱と圧力をかけながら焼結していきます。
金属組織がより緻密で、結晶粒も小さいものになります。
※粉末冶金法とは
粉末状の金属,合金,金属化合物で溶製に適しないものを焼結成形する技術です。
長所としては、
複合金属材料の製造が可能,最終形状に成形できるので、材料歩留りが良い。
短所としては、
製造コストが高く,製品の大きさが限られ,また加工性が悪い。
・硬度
HAP10:HRC63程度
HAP40:HRC66程度
・熱処理条件
焼入れ温度:約1200℃
焼戻し温度:約500℃
急冷方法:空冷
⑦粉末治金-超硬
超硬は、
・代表的な鋼材
①耐摩耗用超硬:VM
②超微粒子超硬:VF,Z
・代表的な規格
各社様々な規格を作っているので、
代表的な規格を掲載します。
①耐摩耗用超硬
アクシスマテリア:AV106,AV207,AV210,AV212,AV215
京セラ:VW30,VW55,VW70,VW80
トーカロイ:G2,G3,G4,G5
マコトロイ:GK10,GK30,GK50,GK60,GK70,GP30,GP50,GP60,GP70
三菱マテリアル:GC15,GC20,GC30,GTi05,GTi10,GTi15,GTi20,GTi30,GTi35,GTi40,GTi50
②超微粒子超硬
アクシスマテリア:AF505,AF513,AF308,AF312,AF209
京セラ:FW05,FW08,FW25,FW30,FW35,FW60
トーカロイ:GF05,GF10,GF20,FX10,FX20,FX30
マコトロイ:ZF10,ZZ05,ZZ10
三菱マテリアル:GM30,MF10,TF15
・特徴
超硬合金とは、極めて硬い合金です。
耐摩耗性が抜群に高くなります。
なお、加工するには、
ダイヤモンド砥石による研削加工・ワイヤーや電極による放電加工
のどちらかが採用されます。
・機械的特性
炭化タングステン(WC、タングステン・カーバイド)と
結合剤であるコバルト(Co)とを混合して焼結したものです。
超硬合金の材料特性をさらに向上させるため、
炭化チタン(TiC)や炭化タンタル(TaC)などが添加されることもあります。
・硬度(HRA)
耐摩耗用超硬:90程度
超微粒超硬:92程度
ダイヤモンドに次ぐ硬さ
・抗折力(曲げ強さ)
耐摩耗用超硬:2.5~3.5GPa程度
超微粒子超硬:3.5~4.5GPa程度
・熱処理条件
不要
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