・前文
何事によらず、すべて基礎から始める。
これが問題を解決する一番の近道である。
とはいっても、誰でも基礎的なことよりも、
実際面の方が興味があり、また、
切実な問題であるだけに身が入るのである。
しかしながら、廻りくどいようではあるが、
やはり基礎から入らないと無駄も多く、
解決出来ない事が多い。
こんなことから、基礎を作る第一歩として、
刃物シリーズを出し始めたのである。
元来ならば、この本が一番始めに出されるべきであったが、
日の目を見ることなく5、6年が過ぎて行った。
大体において刃物シリーズそのものが、
今日読んですぐ役立つものではないだけに、販売面で非常に苦労した。
でも、全国の皆様方の温い御支援を受けて、どうにか補充しながらも
印刷費を捻出して今日まで来た。
しかし、この本を出版することによって
自己資金が枯渇するという最悪の状態に当面することになった。
熱処理という刃物業者にとって最も身近な問題でありながら、
基礎的なこと(厳密に言えば基礎的とは言いがたいが)
を書いて売れるかどうか・・・。
始めからこのことが予想されていたため、
5、6年の間出版を延ばして来たのである。
しかし、いつまでも延ばすわけにもいかないので、
悲壮な覚悟で出版にふみきった。
全国の刃物の産地には必らず熱心な方もみえる筈である。
同好の士が集って試験場あたりを中心にして、
この本を参考に勉強会を開いて頂きたい。
今まで出した本とは違って、テキスト風にしたのはこのためである。
出版費の関係もあって書き足らない部分が沢山あるのは残念であるが、
この本が出発点となって更に勉強されるならば、
筆者としてこんな嬉しいことはない。
最後に、販売面においてもいろいろな御援助下さった一九会を始めとする
全国の研究熱心な方々、理容文化社ならびに刃物工具新聞社に
深く感謝の意を表するものである。
昭和44年5月
著者
・目次
1.諸言
2.鉄鋼の状態図
2-1.純鉄の変態点
2-2.炭素鋼の状態図
3.刃物用高炭素鋼
3-1.刃物用高炭素鋼の成分
3-2.刃物鋼に及ぼす諸元素の影響
3-2-1.炭素の影響
3-2-2.珪素の影響
3-2-3.マンガンの影響
3-2-4.燐の影響
3-2-5.硫黄の影響
3-2.6.ニッケルの影響
3-2.7.クロムの影響
3-2-8.タングステンの影響
3-2-9.銅の影響
3-2-10.酸素の影響
3-2-11.窒素の影響
3-2-12.水素の影響
4.火造りおよび鍛接
4-1.火造り
4-2.鍛接
5.焼準
6.焼鈍
6-1.焼鈍の目的
6-2.焼鈍の種類
6-3.低温焼鈍
6-4.完全焼鈍
6-4-1.焼鈍温度
6-4-2.焼鈍時間
6-4-3.冷却方法
6-5.球状化焼鈍
6-6.焼鈍の際に生ずる欠陥
7.焼入
7-1.焼入の理論
7-2.焼入温度
7-2-1.加熱した場合
7-2-2.火色
7-3.加熱方法
7-4.冷却方法
7-5.冷却液
7-6.焼入方法
7-6-1.時間焼入
7-6-1-1.普通時間焼入
7-6-1-2.二段焼入法
7-6-1-3.引上げ焼入
7-6-2.熱浴焼入
7-7.焼入の際に生ずる欠陥とその対策
7-7-1.焼歪
7-7-2.焼割れ
7-7-3.焼ムラ
8.焼戻
8-1.焼戻の種類
8-2.焼戻温度
8-3.焼戻の加熱および冷却速度
8-4.焼戻の加熱方法ならびに焼戻方法
8-4-1.砂浴戻
8-4-2.油戻
8-4-3.塩浴戻
8-4-4.自己焼戻
9.特殊焼入法
9-1.高周波焼入
9-2.火焔焼入
9-3.電解焼入
9-3-1.加熱機構
9-3-2.電解液の濃度と温度
9-3-3.電極
9-3-4.刃物の実用例
10.時効とサブゼロ処理
10-1.時効
10-2.残留オーステナイトとサブゼロ処理
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